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IMFの対応の非対称性から現在、恩恵を受けている銀行や金融市場参加者がIMFを支持しなくなったら、IMFは現在の不十分な形のままでさえ生き残れるかどうか疑わしい。
各国政府、議会、市場参加者に、システムの存続にみずからの利害がかかっていることを認識させるには、意識の変化が必要だろう。
問題は、この意識の変化がシステムの崩壊前に起きるか、後に起きるかである。
どのような通貨制度が採用されようと、欠陥は必ずある。
変動相場制は、トレンドに追随する投機が行われるため、元来、不安定だ。
そのうえ、トレンド追随型の投機は時間とともに重要性を増すきらいがあるため、不安定さは累積的に高まる。
一方、固定相場制には、崩壊すると破滅的な結果をもたらすという危険がある。
アジア危機がまさにそうだ。
私は通貨制度をよく結婚に例える。
どんな制度が採用されても、別のものの方が魅力的に見えるのだ。
では、どうすればよいか。
変動相場制が最も安全だろうが、この制度では周縁諸国が資本を引き寄せるのは困難だ。
これを信用保証機構と組み合わせれば、健全な制度になるのではなかろうか。
もうひとつの案は、崩壊しない固定相場制をつくることだ。
ひとつの壮大な実験が、現在ヨーロッパで進行している。
単一通貨の創出だ。
これを支えているのは、長期的には共通の通貨なくして共通の市場はありえないという信念であり、私もこの考えに賛成だ。
しかし、ユーロの計画には欠陥がある。
長期的には、徴税もしくは税の再配分の中央への一元化を含む共通財政政策がなければ、共通通貨は成り立たないからだ。
しかし、共通通貨の導入は政治的な決定だったのだから、欠陥もまた政治的決定によって正すことができるだろう。
めったに崩壊しない固定相場制をつくるもうひとつの方法は、通貨評議会(呂弓gこぎ四a、党換外貨準備保有制度)を導入することだ。
これは、その国の通貨の発行・回収の額を、通貨評議会に預託される、あるいはそこから引き出される準備通貨と同額にする自動的なメカニズムである。
香港やアルゼンチンでは米ドルが、アフリカの旧フランス植民地国ではフランス・フランが、エストニアやブルガリアではドイツ・マルクが準備通貨とされている。
通貨評議会の案にはこのところ支持が集まっている。
この仕組みをもう少し緩やかにしたペッグ制よりうまく機能してきたからだ。
私はロシアでは最後の手段としてこれを主張したものの、通貨評議会には懐疑的だ。
危機の際には金利が限りなく上昇するため、通貨評議会を維持する社会的費用が膨大になる危険があるからだ。
今回の危機で、通貨評議会の中でもっともしっかりしたものでさえ攻撃を免れないことが明らかになった。
たしかに香港はその代償を払う用意があったし、中国政府の後押しもあった。
が、香港は特例だ。
香港はなによりもまず金融センターであり、金融センターは、原則的には、通貨が過大評価されたままでも無限に生き続けることができる(現にスイスはそうしてきた)。
通貨評議会の制度はアルゼンチンでも、一九九五年のテキーラ危機の際にうまく機能したが、この制度とて絶対に危険のない方法とはいえない。
具体的にいうと、主要貿易相手国のブラジルが通貨を切り下げたら、アルゼンチンの通貨は恒久的に過大評価されたままになり、通貨評議会にはそこから抜け出す手だてはない。
香港についても、中国が通貨を切り下げたら同じことがいえる荏5)。
ユーロの導入によって、三つの主要通貨ブロックが存在することになる。
日本は特殊な問題に直面しており、円は動的不均衡の状態にあるので、当面は除外してもよいだろう。
これでふたつの主要通貨ブロックが残るが、イギリスがユーロ参加を決めなければ、ポンドはユーロとドルの間で落ち着きなく変動するだろう。
過去には、主要通貨ブロックの衝突によって、株式・債券市場に大きな混乱が起きたことがある。
ドルの高騰がアジア危機の直接の原因だったし、さらに遡れば、通貨の混乱が一九八七年のニューョーク株式市場崩壊の引き金になった。
一九九五年四月の円の急騰も、市場の崩壊にはいたらなかったものの、大きな動揺を引き起こした。
現在では政策協調の必要性が認識され、制度的な仕組みがつくられてはいるが、協調介入の効果に対する信頼は、先進五カ国が協力して為替レートを管理することに合意した一九八五年のプラザ合意の輝かしい日々から、しだいに薄らいできている。
そろそろこの問題を改めて取り上げてもよいころだ。
二大通貨ブロックの出現によって、新しい状況が生まれるだろう。
両者が張り合ったら悲惨な事態になるかもしれないが、一方で、両者の協調も、複数通貨間で行うよりやりやすいかもしれない。
このふたつの主要通貨を公式に連動させることさえ可能ではなかろうか。
連動させることができれば、グローバル資本主義システムの主な不安定要因が取り除かれることになるが、政策協調という新たな問題も生まれてくる。
協調ははたしてうまくゆくのか。
私はユーロに懐疑的なのだから、世界通貨に対してはなおさら懐疑的にならざるをえない。
しかし、完全な統合にまでは至らない協調の方法が、なにかあるかもしれない。
為替レートの変動に対して相互に保証し合う、ほぼ無制限のスワップ協定を結ぶことも、そのひとつだろう。
私が特に魅力を感じているのは、元イギリス大蔵省高官、マイケル・バトラーが欧州単一通貨の代替案として提唱した「ハード・エキュー」構想だ。
これは、中に入るどの通貨よりも価値が一定で、最も信頼度が高い通貨バスケットを設立するというものだ。
加盟国が通貨を切り下げたときは、その加盟国は、通貨単位を構成するバスケットに生じた不足分を自ら補填しなければならない。
ふたつの主要通貨は、このような形で連動させることができるのではなかろうか(イギリスがユーロに参加することには問題がある。
ポンドは、大陸ョーロッパ諸国の通貨とは異なる旋律で舞い、ドルとの調和性の方が高いからだ。
三者間の連動を考えた方が着実かもしれない)。
デリバティブ(金融派生商品)は、効率的市場理論にもとづいて組み立てられた商品だ。
デリバティブがこれほど広く利用されるようになったという事実は、効率的市場理論の有効性を示しているかにみえる。
私はこの見方には同意しかねるが、その理由を述べるにあたっては慎重を期さなければならない。
なぜなら、先に述べたとおり、私は効率的市場理論について詳しく研究したわけではないし、デリバティブの仕組みについてもあまり時間をかけて勉強してはいないからだ。
ベータ、ガンマ、デルタなどは、私にとつてだいたいは単なるギリシャ文字でしかない。
私の理解しているところでは、相場のボラティリティー(変動性)は測定することができ、オプションにプレミアムを払うことによって、ボラティリティーに対して保険をかけることができる。
オプションを売ることでリスクを負う側は、現在のポジション(持高)でリスクを相殺できるか、あるいは、いわゆるデルタ・ヘッジングによって再保険をかけることができる。
これは複雑な戦略ではあるが、結局は、リスクを抑えるためのむしろ原始的な方法だ。
オプションの売り手が、相場が自分に不利な方向に動いたとき、原証券の一部を買い戻すのである。
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